cantata777.exblog.jp
ブログトップ

【首相交代】(下)麻生氏固辞 挙党の思惑はずれ

「本院は福田康夫君を内閣総理大臣に指名することを決しました」

 25日午後1時半。衆院議長、河野洋平の声が衆院本会議場に響くと、福田は席を立ち上がり晴れやかに一礼した。与党から大きな拍手がわいた。

 首相を退任した安倍晋三は福田の様子を最後列でジッと見つめ続けた。昨年9月26日に同様の拍手を浴びた自らの姿を重ね合わせていたのだろうか。安倍は午前中の安倍内閣最後の閣議では「山積する課題を前に去るのは断腸の思いだ」と吐露していた。

 安倍が本会議場に姿を現したのは午後1時3分。すでに開会を知らせるベルは鳴り終え、ほとんどの議員は安倍の入場に気づかなかった。前幹事長の麻生太郎が「本当にお疲れさまでした」と歩み寄ると、安倍は立ち上がろうとしたが、麻生は「そのままで…」と押しとどめ、深く頭を下げた。2人は握手で別れたが、安倍が本会議場で笑顔を見せたのはこの一瞬だけだった。

 24日朝、東京・神山町。久々に自宅でゆっくりしていた麻生は枕元の携帯電話の着メロに起こされた。声の主は福田の所属する町村派重鎮だった。

 「福田から何らかの入閣の打診があるかもしれないが、その時は受けてもらえないか」

 麻生は「私は長い間要職を与えていただいたので、しばらくゆっくりしようと思っています」と丁重に断ったが、声の主は「党が一致結束するためにもよろしく頼むよ」と念を押した。

 この数時間後、再び麻生の携帯電話が鳴った。今度は福田だった。

 福田「ぜひ内閣の一員として協力していただきたいのですが…」

 麻生「大変有り難いお言葉ですが、私は一政治家として内閣に協力したいと考えています。それよりも私を支持してくれた甘利明(経済産業相)や、鳩山邦夫(法相)らをぜひよろしく」

 福田「まあ、一晩よく考えてください」

 穏やかな会話の中に、福田と麻生の政治的思惑が交錯した。

 福田にとって、総裁選で197票を獲得した麻生は「野放しにできない」存在だった。将来の「福田降ろし」の温床ともなりかねない麻生支持勢力を骨抜きにするためには、麻生自身を閣内に取り込むのが最善の一手だった。

 これに対して、麻生はそうやすやすと福田に取り込まれるわけにはいかなかった。派閥の締め付けに耐えて支持してくれた議員の気持ちを考えず、自らが入閣すれば求心力が一気に弱まるからだ。

 福田は25日の衆院本会議場でも「考えてくれましたか」と麻生に握手を求めたが、麻生の気持ちは変わらなかった。

 官房長官に就任した町村はよほど悔しかったとみえ、初会見で「長い閣僚生活にくたびれたならば、なぜ首相に立候補したのか」と皮肉った。

 24日に行われた「党四役」人事には早くも不満の声が噴出した。特に第2派閥ながら安倍政権に続いて派内から党四役を出せなかった津島派は、財務相の額賀福志郎が総裁選出馬断念に追い込まれた経緯もあるだけになおさらだ。

 25日昼に都内で開かれた津島派の臨時運営幹事会。会長の津島雄二は「四役に代表選手を送り込めず申し訳ない。福田総裁は閣僚ポストでできるだけ配慮すると言ってくれた」と釈明したが、数名が「党執行部にきっちりモノが言える派閥運営をすべきだ」と不満を爆発させた。

 衆院での首相指名選挙直前に、福田は国会内で開かれた公明党の代議士会に顔を出した。

 「ここに来ても特別な所に来た気がしない。しっかり協力関係を築き、誠心誠意つとめたい」

 久々のハト派政権を歓迎する公明党は大きな拍手で福田を迎えたが、続いてあいさつした自民党幹事長の伊吹文明の言葉に、前代表の神崎武法らの笑顔が一瞬消えた。

 「政策は大事だが、人間の信義というものがある。苦しい時も約束を守る。うれしい時に有頂天になり、苦しい時にした約束を忘れるようでは、どんなに政策が立派でもこういう人間関係はうまくいきません」

 伊吹にも拍手が送られたが、ある公明幹部は「『自民党の弱みにつけ込むようなマネはするな』とクギを刺しにきたのか」といぶかる。

 7月の参院選で愛知、埼玉、神奈川で現職候補を落とす歴史的大敗を喫した公明党は、その敗因を「自民党に追随しすぎ、ブレーキ役を果たさなかったためだ」と結論づけた。支持母体の創価学会からも「閣外協力も視野に入れるべきだ」との声も上がる。

 13日昼に開かれた公明党衆院議員団会議では、国土交通相の冬柴鉄三が「自民党といつまでも『親密なだけの関係』を続けていてよいのか。自民党は選挙で応援してほしいだけなのかもしれない。考えを変えていかなければいけない」と言い切った。長く自民党とのパイプ役を務め、「自民党よりも自民党らしい」といわれてきた冬柴の発言だけに周囲は驚いた。

 閣僚差し替えを最小限にとどめ地味なスタートを切った福田政権。25日夜、福田と公明党代表の太田昭宏との初の党首会談がなごやかに行われたが、自公の絆(きずな)にはすでにほころびが見え始めている。(敬称略)=この企画は石橋文登、水内茂幸、佐々木美恵が担当しました。

(2007/09/25 )

[PR]
by hanamizukidayo | 2007-09-26 09:20